研究概要 |
本研究は,古代ローマ以来,市壁に囲まれた都市内での生計を維持するための活動的生活(Negotium)と郊外の原野における本来の人間的生活としての余暇・観想生活(Otium)というを対立概念で日常生活を捉えていた地中海地域,とりわけイタリアにおけるヴィッラに対する意識に着目し,利用の様態を正確に捉えておくことが今後日本人が直面する「余暇の過ごし方」の問題の解決に必要不可欠であると考え,記録文書からルネサンス期のヴィッラの活用状況の把握を試みた。ルネサンス期のヴィッラにおける生活を記録した原史料としてフィレンツェの2家系,ストロッツィ家とサッセッティ家の記録文書(納税台帳や日記その他記録文書)を用いて,その記録に現れた利用状況の基礎的物理的データを抽出し,分析するとともに,余暇・観想生活(Otium)に対する考え方,ひいてはその対極にある都市内での活動的生活(Negotium)に対する考え方とその時代的変化を明らかにしようとした.選定した2家系はともに銀行家であり,一方のストロッツィ家は十五世紀フィレンツェのメディチ家に次ぐ,あるいはそれを凌ぐ銀行家である.かたやサッセッティ家は,メディチ銀行の海外支店長を務めるいわばメディチ一党である.ともに銀行家でありながら,資産・身分に差があるこの二つの家系が所有するヴィッラの物理的特性と利用様態を分析することによってルネサンス期のヴィッラ全体の相貌の一部を明らかになったと考える.また,その解読作業の結果、都市生活を営むための邸館,つまりパラッツォと,郊外のヴィッラの生活上の使い方の違いの認識や実際の使われ方の頻度などを詳細に読みとることができた.
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