研究概要 |
焼き入れ炭素鋼の低温時効における炭素原子の凝集・規則化過程を、炭素原子からの電子線散乱強度を増強するために炭素濃度の高い1.8wt%C鋼を用いて、透過電子顕微鏡観察および電子回折法により超微視的に調べた。その結果、炭素原子がまずスピノ-ダル分解によって凝集し(昨年度の研究において証明ずみ)、それに続いてそれらの凝集炭素原子が以下のような長周期規則構造を形成することが分かった。すなはち、298Kの室温で時効したFe-1.83wtC合金のマルテンサイト晶内には10.7c(cはマルテンサイトのc軸の長さである)の非整数の長周期規則相(Long Period Ordered Phase,LPOP)が生成することが分かった。このLPOPの周期10.7cはより高温での時効中に生成することが観察されてきた12cのものとは異なっていた。このことはLPOPの周期が温度に依存して異なることを示しており、LPOPに関する以前の構造モデルでは説明ができない。しかしながら、本実験におけるLPOPが非整数長周期のものであったということから、温度が異なることによって10c,11c,12c,13cおよび14cとなりうる非化学量論組成相のγ'-Fe_xC(II)(x=4〜10)がLPOPの構造モデルであり、ある中間の温度ではこれらのLPOPの内の10cと11cの2つが共存したために、見掛けの上で非整数10.7cの長周期が出現したと考えれば、うまく説明することができる。さらに、このγ-Fe_xC(II)をLPOPの構造モデルとしてコンピュタ-でシミュレートした電子回折図形はあらゆる点で実際の電子回折図形と非常に良く類似していることも分かった。以上のように本研究の目的を達成することができた。
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