研究概要 |
フラックス添加による焼結促進がステンレス綱では成功したにも関わらず,低合金鋼では十分な焼結促進に至らず,フラックスの効果の真因は酸化膜の除去ではないと判断された. そこで,銅に代わり鉄系材料の焼結促進に有効な添加物は,鉄と低温で共晶を作り,材質に悪影響が無く,かつ製鋼工程で制御可能な元素でなければならないとの観点から,硼素,炭素及び珪素を選び,一部には珪素に代えてニッケルも加え,鉄と合わせて3ないし4元系の合金を数種類作って低融点粉末と名付け,有効性を比較した. 合金組成の決定に当たっては,初めに多数の候補組成について熱力学計算ソフトThermo-Calcより融点を計算し,その中から低融点のものを選んで小型試料による一括溶融試験を行った.採用した組成はFe-2.5mass%B-1mass%C, Fe-1.7mass%B-1mass%C-5.5mass%Si及びNi-3.5mass%B-mass%Cの3種である.これらの組成に混合した低融点粉末を,0.5mass%から10mass%まで低合金鋼(Cr-Mo-Mn綱)の粉末に添加し,成形時の圧縮性,焼結挙動,焼結体の組織及び材質を調査した. Cr-Mo-Mn綱粉末に添加して,材質改善が最もよく達成されるのは(Cr-Mo-Mn steel)-2.5mass%B-1mass%Cの低融点粉末を2mass%添加した場合で,焼結後の全体組成が(Cr-Mo-Mn steel)-0.05mass%B-0.8mass%Cに相当する.材質改善の程度は,低融点粉末無添加の場合と比較して,引張り強さが15%(到達強さ800MPa)高くなった.伸びは低融点粉末の添加の有無に関わらず小さいが,添加によって多少改善の傾向が見られ,新綱種の開発に希望が持たれる.今後,(Cr-Mo-Mn steel)-0.05mass%B-0.8mass%Cを中心とする全体組成について,実用上重要な熱処理特性や被削性を検討する必要がある.
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