研究概要 |
油田から分離したHD-1株は好気・嫌気の両条件下において,脂肪族および芳香族炭化水素を資化する通性嫌気性の石油分解細菌である。本研究課題においてはHD-1株を始めとする細菌の嫌気(無酸素)条件下における石油分解機構の解析を目的として研究を進めた。HD-1株を用いてテトラデカン(アルカン)の無酸素条件下での分解を検討した結果、2種類のアルケンが代謝中間体として検出できた。このうちの主成分についてFT-IR,^1H-NMR,GC/MS法などを駆使して構造を決定したところ1-ドデセン(アルケン)であることが判った。この結果は本菌が無酸素条件下において脱水素反応によりアルカンを酸化分解することを示すものである。これまでにアルカンの嫌気分解については我々の研究以外にドイツで1例のみ報告されているが、代謝中間体を解析した結果は今回が始めてである。さらに、本菌は石油がなくともCO_2を単一炭素源として生育することが可能であり、その菌体内には石油成分であるアルカンが乾燥菌体重量当たり0.1%程度合成されることを見い出した。この代謝機構の詳細な検討は今後の課題である。また、最近、新たに無酸素条件下で石油を分解するTK-122株を石油備蓄タンクから分離した。本菌の石油分解能力はHD-1株に比べてはるかに高く、嫌気条件下においても石油成分であるアルカン(オクタンからヘキサデカンまで)を3日間で約70%分解した。さらに嫌気分解時における電子受容体を検討した結果、MoO4^<2->(VI)であることが判った。この結果は従来にない新しい石油分解酵素発見の可能性を示唆する。また16SrRNA遺伝子の塩基配列から本菌はEschericiha属あるいはCitrobacter属に近縁の細菌であることが予想されたが、生理学試験ではいずれも一致しなかった。 以上の結果、TK-122株は新属細菌であると思われる。
|