研究概要 |
植物の培養細胞を人工種子化し,植物細胞を長期にわたって保存する手法の確立を目的として,以下の知見を得た. 1.セイヨウワサビ毛状根から誘導された細胞集塊の不定根再生において,25℃,20日間の培養で,細胞集塊から発根・再生する不定根数は,寒天ゲル中の水分含量に大きく依存し,66%の水分含量では不定根の再生は認められなかった.また,細胞集塊を10%の気相酸素濃度下に20日間保持したとき,細胞集塊からの不定根再生は抑制されたが,その後,この細胞集会を21%の酸素雰囲気の下へ移すことにより,細胞塊からの不定根再生活性が回復した. 2.コート薄膜で被覆したアルギン酸カルシウムゲル中に細胞集塊を包埋する人工種子を作製した.細胞集塊への酸素の供給を可能とし,かつアルギン酸カルシウムゲルの乾燥を防ぐことにより,保存中における細胞集塊の不定根再生活性を維持するために,人工種子表面を被覆する薄膜材を検討した.その結果,パラフィンが,アルギン酸カルシウムゲルの乾燥防止効果が高く,適度の酸素透過性を持っていることから,適切な薄膜材であることが確認された. 3.種々の厚さのパラフィン薄膜を施した人工種子を作製し,25℃にて,60日間の長期保存を検討した.その結果,パラフィン膜厚の増加にともなって,細胞塊への酸素供給が制限されるため,保存後における細胞塊の生存活性の低下が認められた.細胞塊の高い生存活性を得るパラフィン膜厚は,約0.5mmであることが分かった. 4.アルギン酸カルシウムゲル,パラフィン膜の酸素透過係数および細胞塊の酸素吸収速度を実験的に求めた.これらの値を用いて,人工種子中の細胞塊濃度31mmol/m^3(気相酸素分圧2.5%に相当)を与えるパラフィン膜厚を計算したところ,0.47mmを得た.この値は,先の実験で得られた膜厚(約0.5mm)にほぼ一致するものであった. 5.本申請課題で提案した人工種子カプセルは,セイヨウワサビ細胞塊だけでなく,他の植物細胞(タバコカルスなど)の保存に対しても有効であることが確認された.
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