研究概要 |
マイクロスポットテストは,微少量の液体試料を固体表面上で蒸発乾固して生じる「リング」の色または蛍光から、目的成分の濃度を目視判定するシンプルな方法である.このリングは,蒸発過程で自動的に再現性よく形成され,目的成分を高倍率で濃縮する固相媒体となる.本研究では,マイクロスポットテストの応用性を広げるため,以下の検討を行った.リング濃縮系の構成要素であるリング形成を担う物質および固体表面の組み合わせについて検討した結果,ポリビニルアルコール/ポリ塩化ビニル板が最適であった.ここで形成されたリングは,幅が細く輪郭が明瞭であるため,濃縮効率に優れていた.また,この組み合わせにより,濃縮媒体となるリングがほぼ一定の形状・大きさで形成するので,本マイクロスポットテストの分析結果の再現性が向上した.つづいて,微小領域吸光・蛍光解析装置と顕微鏡用加温板を使用することで,液滴の蒸発に伴うリング濃縮を微視的に捕らえた.ポリビニルアルコールによるリング形成は固/液/気相境界から液滴の内部に向かって成長し,それと同時に目的物質はリング中に取り込まれることがわかった.人間の視覚機能を活用する簡便な測定法の開発のため,目的物質の濃度を色の違いであらわす発色系を研究した.そこで,発色試薬の構造,錯体の組成および錯体の可視スペクトルに着目し,キシレノールオレンジ/鉄イオン系においてユニークな発色系を検討した.金属イオンに対して試薬が不足する領域も利用するというものである.この領域で生成する錯体の吸収波長は試薬/金属比が逆の場合と異なる.すなわち,鉄イオン濃度によって,溶液は,黄,赤,青紫色となる.これによって,標準色列とサンプルとの比色が容易になり,瞬時にサンプル濃度を知ることができた.この発色系をボーリングスライムから浸出させた鉄の定量に応用し,均一系において目視測定法として有用であることを確認した.
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