研究概要 |
マロン酸エステル型のビス(12-クラウン-4)およびビス(15-クラウン-5)誘導体は、各々Na^+およびK^+イオン選択性電極用のニュートラルキャリアとして用いられている。クラウン環にはR型およびS型の2種の光学異性体が存在するため、その2分子を連結したビス(クラウンエーテル)が光学異性体(R,R)、(S,S)、(R,S)または(S,R)型の混合物であることは従来から知られていたが、それらの分離が困難であり、現在まで単離されていない。本研究では、光学活性なビス(クラウン)誘導体を合成し、さらに優れた選択性を発揮するNa^+およびK^+イオノフォアを開発しようとした。研究成果報告書には、(R,R)および(S,S)型ビス(12-クラウン-4)誘導体について得た研究結果を成果としてまとめた。 (R)-3-ベンジルオキシ-1.2-プロパンジオールおよび1.8-ジクロロ-3.6-ジオキサオクタンを出発物質として(S)-(+)-2-ヒドロキシメチル-12-クラウン-4を合成し、この2分子を置換マロン酸、あるいはフタル酸で連結して(R,R)型誘導体を得た。一方、(S,S)型ビス(12-クラウン-4)誘導体は、(S)-3-ベンジルオキシ-1.2-プロパンジオールから導いた。ついで、イオン感応物質として光学活性ビス(クラウン)5mg、マトリックス材(PVC)59mg,可塑剤(NPOE)125mg、添加塩(NaTFPB)1.2mgからなるPVC膜電極を作成し、電位差測定法によりNa^+イオン選択性を評価した。(R,R)および(S,S)型ビス(12-クラウン-4)のNa^+イオン選択性は、logk^<pot>_<NaK>=-2.3(K^+/Na^+≒200)であり、従来の光学異性体の混合物であるビス(12-クラウン-4)のそれ(K^+/Na^+≒80)の約2.5倍優れることを認めた。一方、(R,S)型異性体のNa^+イオン選択性が、極めて低いこともわかった。光学活性体である(R,R),(S,S)型誘導体の優れたNa^+イオン選択性は、向かい合う2のクラウン環の対面性が向上することで構成される空孔径が捕捉されるNa^+フィットするためと考えられ、FAB-MASS法によって評価した錯生成定数からも確かめられた。
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