極性の低い芳香族オレフィンが励起一重項状態では求核攻撃を受けるように、一般に分子は光励起により電子分布が変化して分極を生じる。特に高極性分子では光励起により分子内の電荷移動が促進あるいは阻害され、きわめた大きな分極率の変化が誘起される。しかし、分子軌道計算による分極の評価は未だ精度が低く、実験的研究では単純な小分子が対象とされ、高極性棒状分子についての系統的研究は少ない。そこで本研究では、高極性で剛直な棒状構造をもつベンザルアニリンの光励起により生成が期待される超強分極性光励起状態の反応性を解明することを目的として研究を展開し、以下の成果を得た。 1) ^<13>Cおよび^<15>NNMRにより中心C=N結合について電子密度を測定し、4位の置換基が中心窒素原子上の、また4'位の置換基が中心炭素原子上の電子密度により直接的に影響を与えるという特異な電子的効果を明らかにした。 2) 低温MTHFマトリックス中で分子内CT相互作用にもとづく吸収帯を光励起すると励起状態のシッフ塩基と溶媒分子との間にきわめて強い静電的相互作用が誘起され、電子移動によりシッフ塩基のラジカルアニオンが生成すること、および、ラジカルアニオンの生成効率は4'位の置換基の電子求引性に強く依存することを明らかにした。 3) 分子内CT吸収帯の光励起による溶媒付加反応は4位の電子供与基および4'位の電子求引基により促進され、4位に電子供与基が存在する場合は励起分子の水素引き抜きにより、4'位に電子求引基が存在する場合は上述のように電子移動を経由して反応が進行することを重水素同位体効果から明らかにした。さらに、分子軌道計算から励起状態の反応性は水素引き抜き、電子移動ともに中心N原子上の正電荷の発現と相関し、特異な置換基効果の原因となった。
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