研究概要 |
カルボニル化合物をジエノフィルとするヘテロDiels-Alder反応はジヒドロピラン骨格を形成する重要な反応であるが,従来温和な条件で反応を進行させるためには電子供与基もしくは電子吸引性基でジエンもしくはジエノフィルのどちらかが活性化されている必要があった。平成8年度の研究では,カチオン性の2価パラジウム錯体を触媒として用いることにより,活性化されていない単純なジエンとアルデヒドのヘテロDiels-Alder反応が隠和な条件で効率よく進行することを明らかにした。すなわち,イソプレン,2,3-ジメチルブタジエンなどの内部(2あるいは3位)にメチル基を有するジエンと芳香族あるいは脂肪族アルデヒドとの反応は、クロロホルム中,2mol%のパラジウム錯体([Pd(dppp)(PhCN)_2](BF_4)_2等)存在下,50℃,20時間程度で効率よく進行し,対応する付加体を良い収率で与えた。本反応において,パラジウム錯体はルイス酸としてアルデヒドを活性化しているものと現段階では推定している。平成9年度の研究では,パラジウムの配粒子として光学活性なBINAPを用て,不斉ヘテロDiels-Alder反応への展開を試みた。その結果,α-位にカルボニルを有するフェニルグリオキサールと2,3-ジメチルブタジエンの反応において,触媒として[Pd(S-BINAP)(PhCN)_2](BF_4)_2を用いることにより,95%ee以上の高い光学純度で付加体が得られることを見い出した。他のジエンとして,1,3-シクロヘキサジエン,1,2-ジメチレンシクロペンタンを用いても95%ee以上の高い光学純度で付加体が得られることを明らかにした。本反応においてはふたつのカルボニルを有する親ジエン体がパラジウムにキレート配位し,配座が固定されることにより高い不斉選択性が発現したものと考えられる。
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