研究概要 |
ケテンは一般に反応性の富む不安定な分子種であり,単量体として存在し得る誘導体はごくわずかしか知られていない。ケテンはその構造的特徴から,特異な反応性を示すことが知られており,有用な反応剤であると考えられるが,一方でその不安定さから,合成反応への適用という観点からは,まだ十分な検討がされているとはいえない。本研究は,ケテンを活用する新しい立体制御法の開発,新しいタイプの反応の開発,温和な条件下で新しいケテン発生法の開発などを目的とする。 ケテンの代表的な反応の一つとして,イミンとの反応によるβ-ラクタムの合成法が知られている。β-ラクタムは重要な抗生物質の主要骨格であり,合成的価値が高いため,まず,イミンの窒素上の置換基による立体制御を目指し検討を行なった。その結果,1-(2,6-ジクロロフェニル)エチルアミンから誘導されるイミンを用いた場合に高選択的に反応が進行し,対応するβ-ラクタムが高収率で得られることを見出した。次に,ケテン上の置換基による反応の制御を目的とし,不斉助剤としてエリトロー2-アミノ-1,2-ジフェニルエタノールから誘導されるオキサゾリジノン部位を有するケテン設計した。このケテンは対応するカルボン酸から,脱水剤である2-クロロピリジニウム塩により容易に調整することができた。このケテンとイミンとの反応は多くの場合,完全に立体選択的に進行し,β-ラクタムの光学活性体合成法として極めて優れた手法になることを見出した。ケテンは,イミンとの反応の他,炭素-炭素二重結合への付加環化反応によりシクロブタノンを与えることも知られている。そこで,分子内に二重結合を有する同様のキラルケテンを調整し,これを用いて分子内環化反応の検討を行なった。その結果,円滑に反応が進行し,対応する環化生成物が良好な立体選択性が得られることを見出した。
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