研究概要 |
フルギドの酸無水物部をジエステルに変えたフルゲネートは,E,Z,C三成分系の熱不可逆なフォトクロミズムを示す。フルゲネートのフォトクロミズムにおける熱安定性と,構造変化に着目し,ジエステル部にクラウンエーテル環を導入したクラウン型フルゲネート(14,17,20員環)を合成し,アルカリ金属イオンに対する配位能,選択性,および光化学的挙動を検討し,錯形成定数,量子収率を求めた。 クラウン型フルゲネート14員環は,アルカリ金属イオンに対する配位能が低く,選択性がなかった。17員環,20員環では,アルカリ金属イオンに対する配位能が開環体と閉環体で異なり,開環体はそれぞれナトリウムイオン,カリウムイオンと,閉環体はそれぞれリチウムイオン,ナトリウムイオンと選択的に錯形成し,大きい錯形成定数が得られた。開環体はクラウンエーテル環がフレキシブルであるのに対し,紫外光照射によって生じる閉環体は,中央の単結合が二重結合となるためクラウンエーテル環のサイズが小さくなり,光照射により金属イオンに対する配位能および選択性が変化すると考えられる。 クラウン型フルゲネートの光反応挙動は,14員環はアルカリ金属イオン添加による影響を受けなかったが,17員環にリチウムイオン,ナトリウムイオン,カリウムイオンを加えた系では,環化反応の量子収率が低下し,光定常状態におけるC体への変化率が減少した。20員環にリチウムイオン,ナトリウムイオンを加えた系では,環化反応の量子収率が向上し,紫外光照射時の光定常状態におけるC体への変換率が増加した。分子力場計算により求めたそれぞれの安定配座から,17員環E体のナトリウムイオン錯体,20員環E体のカリウムイオン錯体では,環化する二つの炭素原子間距離が小さく,クラウンエーテルの向きが閉環体の安定配座異性体の向きと類似している場合,閉環の量子収率が向上することがわかった。
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