研究概要 |
ポリスチレン/ポリビニルメチルエーテル(PS/PVME)ブレンドを相溶する領域でPS鎖のみを架橋するために、PS鎖に少量の光架橋剤アントラセン(平均44の繰り返し単位に1コ)をラベルした。さらに、架橋反応に伴う弾性歪を除去するために、体積変化によって相分離を引き起こせる光異性化のスチルベンもラベルした(平均20の繰り返し単位に1コ)。アントラセンとスチルベンをラベルしたPS鎖をそれぞれ(PSA)および(PSS)とする。光反応は高圧キセノン・水銀ランプ(500W)を用いて行われ、さらに形成した相分離構造は位相差光学顕微鏡および画像解析システムによって観測された。 1)PSA/PVMEブレンドの相溶する領域内で光架橋すると混合系は相分離する。最初は等方的な共連続構造が見られ、次第に大きくなると共に等方性から異方性に転移した。すなわち、架橋反応が進行することによって、弾性歪が集積され、長距離相互作用として働き、等方性→異方性転移を引き起こし、相分離構造の秩序化をもたらした(A.Harada and Q.Tran-Cong,Macromolecules,30,in press)。 2)一方、PSS/PVMEブレンドを同様に相溶領域で光照射して相分離を引き起こす場合、相分離は起こるが、構造が成長しながら秩序化すると共に自然停止していくことが観測された(Q.Tran-Cong et al.Phys.Rev.Lett.,submitted1997)。すなわち、非反応性ポリマーブレンドの相分離と全く異なり、化学反応が伴う場合では、長波長の不安定なモードが抑制されるため、反応の途中に相分離は停止することが実験的に観測された。この結果は、Time-Dependent Ginzburg-Landau(TDGL)方程式に可逆的に反応を導入する場合、線形安定解析から得られたSoft-Modesの抑制という予測を裏付けられたと結論できる。 3)可逆反応に及ぼす混合系の熱力学を考慮する場合、上記したTDGL方程式を安定解析すると、可逆反応が必ずしも相分離過程を抑制しない理論計算の結果が報告されている。この問題を検討するため、上述したアントラセンの架橋反応(二分子反応)とスチルベンの光異性化反応(一分子反応)の動力学を追跡した結果、アントラセンの場合では、反応が強くブレンドの熱力学に影響されるのに対して、スチルベンの場合では、熱力学の影響はあまり顕著でないことがわかった。すなわち、長距離にわたる拡散を必要としない分子内反応を用いて相分離させる場合、その動力学は近似的に上記したTDGLで記述できることが判明された。
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