研究概要 |
深部地熱資源の開発は,我が国の地熱発電量を今後飛躍的に増大させるために不可欠であるが,深部地熱資源の詳細な賦存状況を把握するには至っていないのが現状である。流体包有物は岩石に発達する割れ目を地熱流体が流動する過程で,鉱物の生成時ないしその後に地熱流体がトラップされたものであり,流体包有物は流体の通路付近で高密度に存在すると予想される。そこで,流体包有物を用いて深部地熱流体の賦存箇所を推定する方法を確立することを目的として,岩手県葛根田地熱地域の深部地熱貯留層に分布する花崗岩類に含まれる流体包有物の多寡と地熱流体の賦存箇所を指示する逸泥の発生箇所との関係を検討した。 研究の対象となった深部生産井Well-19のコアとカッティングス中には,古期ト-ナル岩と葛根田花崗岩の新旧2種類の花崗岩類が確認されている。このうち,古期ト-ナル岩は掘削中に逸泥を伴わないのに対し,葛根田花崗岩と先第三系の境界部および岩体中には逸泥が発生している。本研究では,深度2250〜2440mの古期ト-ナル岩と深度2780〜2800m間の葛根田花崗岩から採取した細粒の石英カッティングス(長径1mm程度)について,流体包有物の占有率を,加熱・冷却ステージを装着した透過顕微鏡に画像解析装置を接続して測定した。その結果,(1)各石英に含まれる流体包有物は気相包有物を主体とし,一部石英には液体包有物と多相包有物が認められる(2)包有物の標準的な占有率は20%以下である(3)葛根田花崗岩内部の逸泥箇所の近傍で占有率は25%と高くなる(4)先第三系と葛根田花崗岩の境界部の逸泥箇所に近接した葛根田花崗岩中の石英での占有率は15%であることが明らかとなった。これらの結果から,花崗岩体の内部では流体の通路付近で流体包有物の占有率は高くなることが示唆され,流体包有物は花崗岩中に発達する深部地熱系の探査に有効である。
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