研究概要 |
作物での一代雑種にみられる雑種強勢の利用に自家不和合性とともに雄性不稔は有用な遺伝資源である。スギは日本の文化を支えた生物資源のひとつとして評価できる。よって,戦後の荒廃した山地にスギが植林された。それらが現在,成樹となり毎年春先膨大な花粉を飛沫させ他の要因と作用し,いわゆる花粉症を多発させていると指摘されている。立山スギ系と思われる雄性不稔スギ1個体が富山市で発見された。裸子植物での雄性不稔はめずらしいのでトウモロコシ,ムギ類,イネなどでの膨大な研究情報を参考にしつつこの雄性不稔スギを遺伝的に分析した。 この不稔樹の雄花の外観は正常であるが,正常花粉の発育に比べ1カ月遅滞した花粉形成で,一核期以後花粉形成が異常になった。この異常と時期的に関連して雄花にエチレン多く発生し,約68kDaのタンパク質が検出された。染色体観察からこの数年スギで発見された三染色体や三倍体による部分雄性不稔スギとは異なり,三染色体や三倍体による雄性不稔でなく,かつ正常個体の花粉による交雑子孫の分析から,この雄性不稔性は遺伝子によると指摘された。ミトコンドリアの4遺伝子DNAの制限酵素分析からatpA-DraIで多型がみられたがスギのミトコンドリアは雄性伝達なので核遺伝子による雄性不稔と推定された。立山自然林における雄性不稔率は低いと推定された。挿し木繁殖率は極端に低いが,雑種種子の発芽率は高かった。今後,これら雑種子孫でこの形質の遺伝様式と原因因子を分析したい。
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