カンキツの染色体地図作成に重要な核型分析が可能となる、新たな染色体標本作製法を開発するために、本研究を行った。また、この手法を用いてカンキツの核型分析を試みた。さらに、染色体の識別や染色体数算定に有効な分染法についても検討した。 1.本法は、1.5mlのチューブ内で酵素処理により組織から単離した細胞をプロトプラストとし、低張処理によってプロトプラストの容積を拡大して、従来より大きな染色体像を得るものである。酵素処理条件は、培養植物の根端では2%セルラーゼ+1%ペクトリアーゼ120分処理または3%セルラーゼ+2%ペクトリアーゼ90分処理が適しており、成木の幼葉では3%セルラーゼ+1%ペクトリアーゼ処理が優れた。低張処理時間は60分が適当であった。この手法により作製した染色体標本は、最大染色体長が4〜10μmとなり、核型分析に有効であった。 2.染色体数はカラタチとオレンジで2n=18、‘土佐文旦'と‘水晶文旦'で2n=20〜21、ウンシュウミカンで2n=19、キンカンで2n=20、ユズで2n=19〜20と算定される核板が多くみられた。カラタチとオレンジの核型分析を試みた結果、いずれも2対の染色体が中部動原体型で他は次中部動原体型であり、カラタチでは6対、オレンジでは5対の染色体の分類が可能と思われた。 3.Gバンド、NバンドおよびCバンドの分染法について検討した結果、Cバンド法だけに特異的な分染像が得られたが、再現性は劣った。CMA/DAPI染色を行ったところ、特異的なバンドが明瞭に観察され、‘土佐文旦'ではバンドが2個ある染色体、バンドが1個ある染色体およびバンドのない染色体の3グループに分けられた。 今後、CMA/DAPI染色やCバンド法およびFISH法を確立し、染色体の識別を明確にして染色体数を特定し、正確な核型分析を行うとともに染色体地図の作成を試みたいと考えている。
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