近年、奈良県を中心とする地域において発見された4〜8世紀代の湧水施設とそこから流れ出る水を導いた水路の遺構について、立地、構造、意匠などを抽出し、その特色と起源を分析した。 対象とした遺跡は以下の7箇所であり、(1)城之越遺跡(三重県上野市・4世紀)(2)阪戸遺跡(奈良市・5世紀)(3)南紀寺遺跡(奈良市・5世紀)(4)上之宮遺跡(奈良県桜井市・7世紀)(5)古宮遺跡(奈良県明日香村・7世紀)(6)島宮遺跡(奈良県明日香村・7世紀)(7)白毫寺遺跡(奈良市・8世紀)、収集した資料は発掘調査報告書、遺構実測図、写真、遺物関係資料、周辺地形図などである。 これらの遺構を7世紀以降の日本の庭園遺構と比較し、以下の見通しを得た。 湧水遺構は水に神性を認め、これを清浄に保つとともに、湧水地点とそれにつづく水路部分を荘厳に飾っている。この装飾の仕方が自然の湧水地や流れの模倣ではなく、むしろ自然から隔絶した人工的な造形を意図していること。流れの勾配が7世紀以降につくられる曲水宴の流盃渠や遣り水に比べ、急勾配であること。斜面の護岸手法が古墳の葺石に共通すること。立石は縄文時代の配石遺構以来の伝統の可能性があること。などが推定できた。
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