研究概要 |
1.一・越年生雑草ヒメムカシヨモギにおいて,春に発芽した個体が当年度内に開花,結実するためには,種子が未発芽の段階で低温に感応して花成刺激への感受性を得ることが必要であった。われわれは,この現象を「未発芽種子バーナリゼーション」と名付けた。 2.吸水種子へのシクロヘキシミド処理によって,花成刺激感受性が誘導された植物体が得られた。これは,発芽過程において合成されたタンパク質が未発芽種子バーナリゼーションに関与することを示唆した。 3.サブトラクティブ・ディファレンシャル・スクリーニングを用いて,未発芽種子で低温によって発現した遺伝子を19クローン単離した。3クローンは貯蔵タンパク質の遺伝子と,4クローンはヒマワリ2Salubuminの遺伝子と相同性が高かった。9クローンは未知の遺伝子であった。 4.日本各地のヒメムカシヨモギにおける一/越年生型個体の構成割合は,寒冷地方で冬季の積雪が少ない地方で高かった。特に,松本市由来のヒメムカシヨモギは,低温を与えなくても花成刺激感受性が誘導され,一年草としての生活環特性を獲得していた。 5.本研究によって,一,越年生という生活史が未発芽種子バーナリゼーションの性質を獲得したことで成立したことが初めて明らかとなった。この性質の発現に関わる遺伝子は,一年生植物の進化メカニズムを探索する上で,鍵となるツールかも知れない。
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