研究概要 |
ミツバチのコロニーにおけるスペシャリストの成因として,遺伝的背景(血縁)および行動的背景(経歴)の両側面からの解析を試みた.遺伝的背景は,特定のスペシャリストが特定の血縁グループに帰属するかどうかという点に着目し,行動的背景は,スペシャリストとなる個体のそれ以前あるいは以降の行動パターンに特定の類型があるかどうかに着目した. スペシャリストとしては,死体捨て行動をとるものをサンプルとした.この個体数が充分に得られなかったこと,DNAマーカーを用いた血縁分析が必ずしも分離度の高いものとはならなかったことから,遺伝的背景のスペシャリスト化への寄与度は測定できなかった.一方で,死体捨て行動をとる個体の行動履歴には特異性が見られた.これらの個体は,スペシャリストとなる以前でも,あるいはスペシャリストのタスクからの解放後でも,他の個体に較べ,巣板上における行動量,行動の成分種数とも多く,外刺激に対して過敏な反応を示した. スペシャリストとして観察される個体がコロニーの働き蜂の1%内外であることから,ある血縁集団があるスペシャリストと密接に関係するとは考えにくく,ある(複数の)血縁集団のなかで特に反応閾値が低く設定されている個体がスペシャリスト化しやすい個体であると考えるのが妥当であろう. 今後DNA分析においてより血縁グループの分離度の高い方法を導入し,血縁との関係をさらに詳細に調査することが必要である.平成10年にシーケンス電気泳動装置を導入したので,今後この点について知見が得られる予定である.また,観察巣箱に頼るスペシャリストの抽出は,もともとの個体が少なく充分なサンプルが得られない.今後は通常サイズのコロニーで観察できる行動系で実験を試みる.
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