本研究は、遺伝子導入を行ったDNAおよび、内在性DNAの巨大DNA領域の遺伝子増幅・発現と核内挙動を蛍光in situ hybridization(FISH)法を用いて視覚的に明示することを目的として研究を行った。まず、相同組換えを利用して導入した遺伝子の正しい導入の確認、機能付与のために生物種の異なる遺伝子を導入した場合の導入部位の同定をFISH法を用いて行うための予備実験としてスライドガラス上に培養した細胞をそのまま固定し、巨大DNAをプローブとしてFISHを行ったところ、効率よくFISHシグナルを検出することに成功した。同時に、固定操作時に細胞の剥離もあり、特に浮遊細胞系ではポリリジンでコートしたスライドを用いてもロスが多いことから、細胞ロスのない固定法を必要とすることがわかった。すなわち、導入遺伝子の検出法は確立したが、今後一細胞レベルでの効率的迅速解析法の確率が必要である。一方、多剤耐性遺伝子(MDR)ゲノム領域の増幅はdouble minute(DM)タイプで、特にMDRを含む部位の増幅度が大きく、さらのその周辺1MB前後のゲノム領域におよぶが、YACを用いたマルチカラーFISHによって増幅度の異なるゲノム領域を検出した。また、DMタイプの増幅物の細胞核内分布は細胞周期に依存してある程度の規則性があることが推定されたが、付着系の細胞系であるため細胞周期ごとの分画が困難であり、また多剤耐性遺伝子を含んでいるので細胞の同調が困難であるため、個々の細胞周期でのDMの核内配置について結論を出すには至らなかった。また、共焦点レーザー顕微鏡は検出波長により感度的に問題がある点、検出色の数にも制限があるため、高感度CCDカメラ三次元解析システムの導入を含めて検討する必要がある。また、ヒトMHC領域のクラスIIとクラスIIIは別々のレプリコンクラスターにあることを血球系の細胞を用いた複製タイミングの解析から推定したが、核内で検出されるレプリコンクラスターは、細胞腫によって異なることがわかり、FISH操作によっても検出されるクラスターの形状が変化する等今後の検討が必要である。
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