研究概要 |
北方林を構成する植物にとって,林冠の種組成や空間的な構造によって決まる林内の光環境は,分布や生活様式を制限する最も重要な要員である.林床に生育する植物のみならず,林冠を形成する高木種でも,その生活の初期段階では林内環境の影響を強く受ける.このことから林床に生育する植物の季節的な着葉の動態を類別し,それらの分布と上層木の種組成や構造および林内の光環境の季節変化との関係を解析した.林床においては,植物は一年葉植物,二年葉植物,多年葉植物,異型落葉植物および無緑葉植物に類別され,一年葉植物はさらに夏緑葉植物と冬緑葉植物に区分された.多年葉植物では,光資源が乏しく競争の少ない立地で優占度が高く,これに対して春植物と夏緑葉植物は,光資源が豊富で競争的な立地において優占していた.夏緑葉植物にとっては,特に夏の光条件が優占度を支配する主要因であることが示された.これらのことは、着葉期間と立地の光資源量との間に負の相関関係が存在するといわれていることから予想された結果であった.しかし,多年葉植物と同様に越冬葉をもつにもかかわらず,春と秋の光資源の豊富な立地で優占する二年葉植物では,上層木の落葉後の効率的な光合成と,同化産物の効果的な転流による短期間の開葉によって,春先の競争の激しい立地において有利となることが考えられる.落葉樹林内では秋と春の落葉期での同化作用によって有利であるといわれている冬緑葉植物は,いずれの光環境との間にも有意な相関はみられなかった.このことは,積雪による越冬葉の保護がない立地で,越冬に要するコストが秋や春の光合成による利得をうわまわった結果であると推定される.
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