研究概要 |
林内の高木、亜高木性稚樹の個体周辺の光環境は、稚樹の林冠層への補充課程での樹形構築に大きな影響を与える。特に広葉樹の稚樹は成長に伴う光環境の変化に応じて可塑的に地上部-地下部の樹形を変化させることが予測される。その際稚樹の耐陰性は、その成長段階における光環境の違いに応じた成長、地上部-地下部の樹形、乾物分配などで定量化されたパラメータによって評価されると考えられる。本研究は太平洋側ブナ天然林を構成する主要高木、亜高木樹種の稚樹を対象にして1)稚樹の耐陰性能力の定量化、2)異なった光条件下における稚樹の成長とアーキテクチュア(樹形)の構築課程に焦点を当てた地上部と地下部根系における樹木の生活史戦略特性の解明、3)異なった光条件下における葉、枝、幹および根系への生産物の分配戦略の解明を目的とする。本研究の調査地として、太平洋側のブナ自然林が広く見られる栃木県塩谷郡高原山、山形県小国町、東大秩父演習林の3ヵ所で行った。対象樹種の7種は、高木および亜高木、耐陰性の異なる高原山でホオノキ、コシアブラ、コバノトネリコ、サワシバ、ヒナウチワカエデ、ヒトツバカエデ、シラキ、小国町でブナ、イタヤカエデ、秩父でイヌブナである。ほぼ均一な土壌条件をもつ場所で樹冠の欠ける部分(ギャップ)と閉鎖林冠下で、1-5mの樹高の稚樹を選定した。それぞれについて樹高、直径(Do,D(1/10)),樹冠サイズ、樹冠の厚さ、幹の傾斜(地際、梢端部)、梢端枝の角度と成長量(5年間)、梢端当年枝の太さ、葉数樹齢および長さ、短枝数、長枝数、生産物分配比(幹、根)、根系の構造の解析を行った。また根系のアーキテクチュア(樹体構築)を線交差法で解析した。光環境は、サンプリングする稚樹の上で魚眼レンズで天空方向を撮影し、開空度を算出した。測定には今回新たに開発したジャイロ上に魚眼レンズ付きカメラを水平にのせた全天空撮影装置を5mのアルミポール上にのせ、地上5mまでの間の全天写真を自由に撮影可能であり、これを使用した。根系の解析から、稚樹の根は深さ50cm以内に広がっており、3つの根系タイプに区分された。1)直根系で水平根は限られ、細根も少ないもの、2)心根系を持ち、側根と細根の量は中間的なもの、および2)表層根系で細根量も多いものに区分された。これらの根系タイプと稚樹の地上部の樹型とは密接な関係があることがわかった。また、地上部のアロメトリー解析から次の3つのタイプの樹型に区分された。1)大きな葉を持ち、直立枝で伸長成長に適応的な樹型、2)同化部を効率的に横に広げ、広い樹冠と、斜行枝で被陰条件下に適応的な樹型、3)両者の中間型
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