研究概要 |
わが国の森林資源政策は,森林法にもとづく森林計画制度によって体系づけられ,所有形態の如何を問わず人工造林による資源整備を中心に推進されている.中でも私有林では造林補助金によって林家の造林意欲を高めるという形で、つまり林家の経営マインドに依拠してきた. しかし,近年の台風災害やシカ等の鳥獣害,あるいは木材価格の長期的低落傾向のもとで林家の経営マインドは著しく後退し,間伐等の森林施業がなおざりにされるばかりでなく,人工林の皆伐跡地すら再造林せず,放置される例が各地で見られるようになった. そこで,林家の森林施業の実態を地域林業を熟知している森林組合を対象とするアンケート調査によって解明した.その結果、比較的活発な林業活動の行われている九州でも人工林皆伐跡地の約2割が未植林のまま放置されていることが明らかになった.さらに、植林放棄の背景を明らかにするために,九州,四国において流域林業の実態調査を行った. その結果,人工林皆伐跡地が放置される要因として,極限状態に達した過疎化の中で,林業従事者の大幅な減少と高齢化による労働力不足に陥っている林家では,自力で再造林できる面積はごく小さく,何らかの理由で大きな面積を皆伐したときは森林組合の森林造成事業や森林開発公団・林業公社造林に依拠するしかないこと,しかし,自前の労働力を持たない公社・公団には不規則な伐採行動による突発的な再造林要請に対応する能力はないし,同様のことは森林組合についても言えること,このような形で公社・公団との契約待ちという状況が恒常化していること,さらに造林投資の採算性の極端な悪化やシカ害などにより成林の見込みが乏しいということが背景にあることが分かった.
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