研究概要 |
海産赤潮ラフィド藻には,養殖魚類を大量斃死させる種が多く,また多くが生活史の中で越冬シストの時期を持つ。シストは赤潮の発生源となり,分布域の拡大にも寄与している。従って,シストの形成条件の解明により,赤潮の発生〜消滅に至る個体群動態がより正確に把握できると期待される。しかしながら,シストの形成条件は殆どの種で不明である。本研究では,他のChattonella属のものやHeterosigma akashiwo等の有害種について,シストの形成過程と条件を検討した。得られた研究成果の概要は以下の通りである。 (1)現場海域で発生したH.akashiwo赤潮の末期の細胞を,現場水温(20℃)で暗黒条件下に置いた場合,まず通常の栄養細胞よりも小さい「シスト形成小型細胞」と判断される細胞が観察され,そしてシストが形成された。シストは,発芽が可能になるまで約2週間の休眠・成熟期間を必要とした。 (2)H.akashiwo赤潮の末期に,シストが相当大量に(>10^3/cm^2)形成され,実際に海底へ補給される事が判明した。形成直後のシストは現場の海底で発芽出来ず,2週間程後より発芽が可能な状態になった。 (3)H.akashiwo,C.ovata,C.verruculosaの3種について,培養条件下で栄養条件を変化させてシスト形成実験を行った。その結果,硝酸塩とアンモニウム塩のどちらの場合でも窒素欠乏条件下で,H.akashiwoとC.ovataのシスト形成小型細胞と判断される細胞が形成された。C.antiquaとC.marinaではこの条件下で良好にシストが形成されるのに対し,これら2種は健常なシストの大量形成には至らなかった。また,C.ovataの場合,窒素欠乏を経験した細胞は温度22℃の暗黒条件下で4週間以上生存するという,暗黒下での長期生存能力を獲得することが判明した。
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