研究概要 |
雄の生殖器官の観察から、雄はほぼ周年にわたり精子形成を行っており、明瞭な生殖周期・交尾時期を有していないことが推測された。雌は6-24個体の胎仔を持っており、同一時期に採取された雌が持つ胎仔の大きさにばらつきがあることから、種としての明瞭な出産時期を持っていないことが考えられた。排卵直前と思われる卵巣卵は乾燥重量平均30.54g、水分含有量57.74%で受精卵のそれらとほぼ等しかった。胎仔の乾燥重量は全長70mmまでほとんど変化しなかったが、それ以上の胎仔では減少する傾向にあった。胎仔の水分含有量は全長70mm以上では増加する傾向にあり、全長232mmの胎仔では71.4%に達した。胎仔の肝臓の乾燥重量は全長105mmを境に急激に増加した。胎仔の外鰓は全長60mmで最長になり、その後収縮し全長140mm以上では確認できなかった。卵殻腺主体は管状腺で出来ており、卵巣卵、胎仔の状態によりその発達状態は異なった。卵殻腺における精子の貯蔵は確認できなかった。胎仔全長10mmから42.4mmまでの母体の子宮狭部の上皮組織には多糖類が検出された。子宮内には絨毛が発達し、それらの上皮組織には多糖類が検出された。子宮内液の蛋白質濃度は胎児の成長に伴い減少し、全長100mm以上の胎仔を持つ個体では1.1mg/ml以下の濃度であった。それらの蛋白質の分子量は14kdから79kdで、4-11本のバンドが確認された。しかしながら、分子量40-60kdの蛋白質は全長105mm以上の胎仔を持つ個体からは検出できなかった。母体の血清の蛋白質濃度は11.3mg/mlから23.4mg/mlで、その分子量は21-72kdで、8-15本のバンドが確認された。全長108mmの胎仔の腸腔内から卵黄が観察された。これらのことから胎仔全長100mm前後で、胎仔の栄養吸収様式が変化することが推測された。 第1、第2背鰭の棘ともに試魚の成長とともに長さが長くなった。棘露出部は薄い外套膜で覆われ、前縁には象牙質で形成された突起部があり、本体部は内象牙真層と外象牙真層とから形成され、内腔は軟骨によって占められていた。象牙真層には輪紋が観察され、その輪紋数は先端部で最も多かった。全長664-1226mmのサガミザメでは6-15本、全長308-982mmのヘラツメザメでは1-15本の輪紋が観察された。輪紋数は成長に伴い増加した。出生直後と思われるヘラツノザメの輪紋数は1本であることから、出生時あるいは出生前に輪紋が形成されると考えられた。輪紋数組成においてサガミザメの雄は9輪に、雌は13輪に、ヘラツノザメの雄は6輪に雌は10輪に最頻値があった。生殖腺の状態から推定した成熟最小個体の全長はサガミザメ雄が750mm、雌が1020mm、ヘラツノザメ雄が650mm、雌が822mmであることから、それぞれ7,10,5,9輪で成熟すると考えられた。本研究においては輪紋の形成周期を確定することが出来なかった。今後、年齢を推定するためにも形成周期を明らかにする必要がある。
|