研究概要 |
牧草の環境抵抗性とエンドファイトの関係を明らかにすることにより,エンドファイトを牧草育種に有効に活用することを目的とした.まず,高標高地帯から収集したペレニアルライグラス生態型のエンドファイト感染率を調べたところ,いずれの系統もエンドファイト感染率は0%であった.従来,エンドファイトが関係する環境抵抗性には乾燥や暑さが知られているが,耐寒性にエンドファイトが関係していないことを意味する.つぎに,流通品種のエンドファイト感染状況を,ペレニアルライグラスとトールフェスクについて調べた.用途別にみると,両草種とも芝生用品種は飼料用品種よりも高く,育成国別では米国の品種が最も高い値を示し,次いでヨーロッパ,日本の順で、国内育成の両草種からは,いずれもエンドファイトの感染は認められなかった. 盛岡で生じた家畜中毒の原因が,エンドファイトにが産生したアルカロイドによるものであることを明らかにして以来,全国的にエンドファイトによる家畜中毒が生じていることが明らかになった.そこで,中毒を生じた飼料の関連ロット,岩手県内の流通飼料について,中毒に大きく関与するアルカロイドのロリトレムBとアーゴバリンについて分析したところ,中毒を引き起こした飼料の含量は高く,報告のない飼料についても中毒をおこすに十分高い値を示した試料が認められた. 最後に,わが国の気象条件下におけるエンドファイト種子の実用場面での感染個体出現率を調べた.既存の芝地で牧草の個体密度が低下した場所にオーバーシードした場合は低い値となり,植生が何もない場所に種子を吹き付けた場合には高かった.今後,植物体とエンドファイトの生長速度や共生関係等,エンドファイトを有効に利用する上でさらに積極的に研究を推進する必要がある.
|