除草剤のパラコートは、生体内で活性酸素を生じ細胞膜に障害を与え、肺の線維化を生じることが知られている。一方、活性酸素の消去系酵素や線維化と関連するコラゲナーゼ代謝活性には、亜鉛が重要な役割を演じており、したがって、生体内の亜鉛欠乏がパラコートの毒性を修飾するかどうかラットを用いて検討した。 実験には、SD系ラットを用い2群に分け、ラット用亜鉛調整精製飼料(ピュリナ製、米国)の亜鉛3ppm添加と30ppm添加の飼料をそれぞれに4週間給餌した。4週間の給餌後、各群をさらに3群に分け、生食投与群、パラコート10mg/kg投与群および30mg/kg投与群とし1回皮下に投与した。投与日を0日として3、6および9日にラットを屠殺し速やかに肺を採取した。右肺後葉は組織学的計測用、その他の葉はプロリンハイドロキシラーゼ活性の測定用試料とした。組織学的計測は常法に従い作成した切片にアザン染色を施し画像解析システムを用いてアニリンブルーで染色された結合組織の面積を単位面積当たりの面積比として算出した。プロリンハイドロキシラーゼ活性の測定は、Huttonらの方法によって測定した。 組織学的計測では、投与後6日のパラコート30mg/kg投与群において生食群と比べ面積比は高い値を示したが、亜鉛給餌の多寡による差は認められなかった。投与後3日の30mg/kg投与群および投与後3、6および9日の10mg/kg投与群では、いずれの群も生食群とほぼ同じ値を示した。また、肺組織中のプロリンハイドロキシラーゼ活性においても、投与後6日の30mg/kg投与群の亜鉛3ppmと30ppmの両群においてのみ生食群に比べ高い値が観察された。これらの結果は、パラコート30mg/kgの投与で肺の線維化が始まることを示すものと考えられるが、亜鉛給餌の多寡は、パラコートによる肺の線維化には影響しないように思われる。
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