研究概要 |
当該研究期間の研究目的は、第三脳室腹側前部(AV3V)で作られるプロスタグランジン(PG)が、容量減少で惹起される抗利尿ホルモン(ADH)分泌や心血管因子等の反応に関わるのか否かと言う問題を調べ、続いて、AV3VにおけるPGE2の機能が、この領域に分布するカテコールアミン神経の働きを介してもたらされるのかどうかと言う問題を追求することだった。実験は、科研費交付申請書に記した如く行われ、一部を除き、ほぼ計画の通り進行した。結果の概要は以下の通りである。 [1]覚醒ラットの大腿動脈から体重の1%の血液を2度(H1,H2)除去すると、H1後に、血圧や心拍数の変化を伴わない血漿ADH(pADH)の増加が生じ、H2後には、血圧が下がり、pADHは更に増大し、加えて血漿アンギオテンシン11(ANG11)が上昇した。血漿浸透圧やNa^+濃度は脱血によって変わらなかったが、C1^-は増加、K^+は減少した。 [2]PC阻害薬であるメクロフェナメイト(MCL)を、AV3Vに微量注入すると、脱血によるpADHの上昇が阻害され、降圧反応の増強と心拍数低下が生じた。それ以外の因子への影響は見られなかった。これらのMCLの効果は、AV3Vから僅かに離れた側坐核や脳室への注入では起こらなかった。 [3]AV3VのMCL注入部近傍にPGE2を局所微量投与するとpADH、血圧、心拍数が上昇した。 [4]AV3Vにド-バミン、フェニレフリン(αアゴニスト)を局所微量注入すると、pADHが一過性に増大した。ドーパミン投与では、他の因子は全く変わらなかったが、フェニレフリン投与では、一部、血圧増加を併発する例が認められた。一方、イソプロテレノール(βアゴニスト)のAV3V注入は、降圧と頻脈をもたらした。 [5]上述のフェニレフリンの効果はフェノキシベンザミン(αアンタゴニスト)のAV3V前投与によって消失した。一方、ド-ハミンの効果は、SCH23390(D1アンタゴニスト)の前投与によって抑制されたが、スルピリド(D2アンタゴニスト)のそれは効果が無かった。これらのアンタゴニストの投与のみでは、測定因子は全て不変だった。 [6]PGE2のAV3V注入によるpADH,血圧、心拍数の増大は、フェノキシベンザミン、SCH23390、スルピリドのどれをAV3Vに前投与しても、有意に変化しなかった。 [7]以上の結果は、(1)AV3Vで産生されるPGは、容量減少下のADH分泌と心血管機能の調節に重要な役割を担うこと、(2)AV3Vには、ADH分泌や心血管因子の変化に働くカテコールアミン受容体が存在するが、当該領域でのPGE2の作用は、これらの受容体によって媒介されるものではないことを示唆している。
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