研究概要 |
近年アゾール系抗真菌剤の使用により播種性カンジダ症の発生が減少しているが,これら抗真菌剤に耐性のあるC.albicans,C.tropicalis以外の従来は病原性がないとされてきたNon-albicans speciesによるカンジダ症や類似の酵母状真菌感染が増加している.病理組織診断は深在性真菌感染症の診断の際にも威力を発揮するが,「種」のレベルの診断や迅速性には限界があり,血清学的な診断や体液材料を用いた遺伝子診断に比べて発展が遅れている領域である.本研究では病理組織検体として固定,包埋処理されたカンジダ感染検体を用いて,「種」のレベルのカンジダ菌種の同定が可能か,またこれら菌種をPCR,in situ hybridizationにより組織診断できるかを検討した.まず剖検材料,生検材料,実験感染材料でカンジダ感染が確認された組織切片からC.albicans特異的なDNAの増幅が可能かを検討した.検索したC.albicansに特異的な遺伝子(BenR,CARE-1,CARE-2,CDR2)でパラフィン材料からの検出が可能であったのはBenRのみであった.BenRはnon-albicans speciesを初めとする病原真菌では証明されず,C.albicans特異的な遺伝子として診断に応用可能な分子である.しかし,剖検例など過固定された組織ではPCR法によっても診断困難な例が多かった.他のカンジダ種については構造遺伝子を含めて1種類の菌種に特異的なPCRによる増幅が可能な遺伝子は見い出されず,以後は組織切片でのC.albicansの特異的染色に焦点を絞った.最初に5.8SrRNAについてビオチン化プローブを用いた同定を試みたが実験感染例ではC.albicansとC.tropicalisを区別することはできなかった.また,通常の末端1塩基のみの標識では十分な染色感度が得られず,複数の塩基標識プローブの作成は経済性の点でも問題があった.BenRを対象にPCRにて特定の領域(400-600bpサイズ)をジコキシゲニン-11-dUTPを加えて増幅することで得た標識プローブを使用してin situ hybridizationを検討しているが,厳密な意味でのsense probeを用いたコントロールの設定など染色特異性を評価するための条件を整える必要がある.以上よりホルマリン固定された組織検体によるカンジダ症の遺伝子診断についてはC.albicansを中心に発展の可能であるが,他の菌種については薬剤耐性遺伝子など各種真菌に特異的な遺伝子のクローニングなど遺伝子情報の充実が診断への応用の過程で不可欠であると考えられた.
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