甲状腺濾胞癌の病理診断は濾胞腺腫との鑑別診断が困難な場合が少なくない。このため研究代表者が作製したsialic acid related carbohydrate antigenを認識する単クローン抗体(FB21)が、それらの鑑別診断に有用かどうかパラフィン包埋切片を用いて免疫組織学的に検討した。検索した甲状腺組織は73例で、FB21抗体は正常の濾胞上皮を含めて腺腫性甲状腺腫(0/3)、Basedow病(0/3)、濾胞腺腫(normo-またはmacro-follicular type:0/12)および髄様癌(0/1)ではほとんど反応を示さなかった。一方、乳頭癌(9/20)および濾胞癌(14/15)には反応が認められ、濾胞癌ではその陽性率が高かった。このことからFB21抗体が特に濾胞癌と濾胞腺腫の症例の鑑別診断に有用であると考えられ、甲状腺の癌化に伴ってFB21抗体が認識するsialic acid related carbohydrate antigenの発現量が増加してくると推測された。しかし、microfollicular patternを有する濾胞腺腫の症例(5/14)にもFB21抗体が陽性を示し、詳細な検索により濾胞癌と診断された症例が認められたことから、FB21抗体陽性の濾胞腺腫例にも濾胞癌がある可能性が考えられた。 今後、甲状腺濾胞癌の診断におけるFB21抗体の有用性が確立されれば、濾胞性腫瘍におけるras遺伝子を含めた遺伝子学的な検討が容易となり、さらに細胞診標本を用いた術前診断への応用、治療、予後に大きな意義があると考えられた。
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