研究概要 |
クロム酸塩製造作業に従事した労働者には,肺癌が多発することが知られている.われわれは1975年10月以降,東京にあった工場(1975年8月まで操業)で働いていた男性従業員84名を対象に,肺癌の早期発見をめざして,胸部レントゲン撮影,喀痰細胞診で年2回の検診を開始した.レ線上異常陰影を見るか,あるいは細胞診でクラスIII以上が出た場合は,当施設の病院で気管支内視鏡検査,1980年以降はCTを加えた精査を行い,これまでに多くの肺癌を早期に発見・治療してきた.また,可能な限り剖検まで行なって,これまでに13例の剖検例を詳細に検索した. 1995年は検診を開始してから20年が経過し,ごく軽度の曝露のみの症例を除き,大部分の症例の転帰が判明しうると考えられるので,再度の疫学調査およびこれまで集積した腫瘍組織を用いての遺伝子検索を行なった. 今回は肺癌に絞ってその後の発がんを調査した.84名中,死亡者12人に計26この肺癌が発生した.12人中11人は剖検が行われており,全例,当施設で行われた.多重癌が多いのが特徴で,その内訳は,単発癌5例,2重癌5例,3重癌1例,8重癌1例であった.(この8重癌症例については,別途学会で発表した.)肺癌の組織型は,これまでの調査と同様で,扁平上皮癌が主であった.年齢・性別をマッチさせた一般人との比較による相対危険度の算出は現在進行中である.前回(1984年)の調査で16.6であったが,今回はそれを上回るものと推定される. 遺伝子検索では,microsatellite markersを用いたp53遺伝子のLOHを4例の扁平上皮癌について検索したところ,100%(4/4)で認められた.このことは,一般の扁平上皮癌と同様,クロム肺癌でもp53癌抑制遺伝子が発がんに強く関与していることを意味している.現在,さらに症例数を増やすとともに,その他の染色体部位でもLOH検索を行っている.
|