研究概要 |
慢性腎不全に至る糸球体硬化症への過程を阻止することは現在の腎臓病学における最大目標である。しかしその目標を達成するには現在までの実験腎炎モデルを含めた研究はほとんど成果をあげていない。その大きな理由として糸球体を特殊な微小循環系としてとらえ、生体内で起こる現象をin vitroで再現し、解析できる実験系が確立していないことがあげられる。我々は平成6、7年度の文部省科学研究費の補助により、新しい血管内皮細胞培養法(Microvasc.Res.50:113,1995)を用い、ラット・メサンギウム細胞と混合培養し、生体内と類似の動態を示す培養法を確立した。この培養法を用い、メサンギウム細胞表面上に存在するThy-1.1分子が存在しうることを見いだしてきた。本研究(平成8・9年度科学研究費)の目的は、メサンギウム細胞上のThy-1.1分子の微細レベルにおける局在とこの分子が機能分子として働き、機能エピトープが存在することを明らかにすることである。以下に当該年度において得られた研究成果を項目ごとに列記する。 1.メサンギウム細胞と血管内皮細胞の混合培養系で、両細胞の接着部位に優位に局在するThy-1.1分子エピトープの存在をメサンギウム細胞上に証明した(T.Oite et.al Exp Nephrol 4:350,1996)。 2.メサンギウム細胞上のThy-1.1分子に2種類の同分子に対する単クローン抗体を反応させて、細胞内カルシウムイオン濃度を測定すると、一方の抗体添加により著しい増加が認められ、Thy-1.1分子が機能分子として存在し、機能エピトープの存在することを示唆する結果が得られた(M.Narisawa-Saito et.al J Cell Physiol 168:705,1996)。 3.このシグナル伝達には蛋白チロシンキナーゼ系を介しており、少なくともSrcファミリーの分子が関与している(M.Narisawa-Saito et.al Clin exp Immunol 106:86,1996. 4.COS細胞にThy-1.1cDNAをtransfectし、上述の機能エピトープ検索するする基礎的な実験系は確立した(上述、Exp Nephrol)。 5.ラット単離糸球体を用いて、糸球体固有細胞のアポトーシスを定量化する方法も確立され(S.Omori et.al Nephron 77:474,1997)、Thy-1.1分子を介するアポトーシス惹起の可能性も検討中である。 6.Thy-1.1分子に対する単クローン抗体を投与して惹起される腎炎の性状の差が明らかとなった(H.Kobayashi et.al Nephron 77:333,1997.,H.Nakayama et.al Nephron in press)。
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