研究概要 |
小胞体(ER)内で蛋白質のS-S結合形成に働くprotein disulfide isomeraseのファミリー蛋白質(PDI,ERp61,ERp72)が蛋白質のfoldingにどのように関わっているかを調べ、発生の過程でこれらの酵素の発現がどのように推移するかを解析した。 マウスのIgG産生細胞、IgM産生細胞、IgA産生細胞におけるPDI,ERp61,ERp72の発現を、蛍光抗体法、Western blotting、免疫沈降法により比較検討した結果、IgM産生細胞およびIgA産生細胞ではIgG産生細胞に比べてERp61およびERp72の発現が高いことが明らかとなった。また、免疫グロブリン産生細胞では、線維芽細胞などの他の細胞型に比してPDIの産生が低いことも明らかになった。さらに、chemical cross-linking処理を施してPDI,ERp61,ERp72と免疫グロブリンが免疫沈降により共沈するか調べた結果、IgA産生細胞ではERp72とERp61がIgAに結合していることが明らかになった。IgM産生細胞でも、従来の報告で指摘されていたIgMとPDIの結合より、むしろIgMとERp72、ERp61の結合が主要であることが判明した。このことはIgMやIgAのS-S結合形成にはPDIよりむしろERp72やERp61が重要であることを示唆している。insulinのfoldingに果たすPDI,ERp61,ERp72の役割についても検討した。insulinを還元して得られる変性型aggregatesにそれぞれの酵素を作用させたところ、どの酵素でも再溶解させることは出来なかったが、PDIとERP72がinsulin aggregatesに結合することが明らかとなった。この性質がこれらの蛋白質のシャペロン活性と密接に関連していると考えて、更に解析を進めている。ERP61にはこの性質は認められなっかた。胎生11日から16日のマウス胎仔の発生に伴うこれらの発現の変化について免疫組織化学的に解析した。いずれの酵素も胎生11日目には既に広範な細胞型において発現を認めた。発生が進むにつれて、椎体の軟骨原器や、肝細胞などにおける発現が増強した。PDI,ERp61,ERp72それぞれの発現が、特異な細胞型の発生に随伴して来ることも確かめられた。例えば、発生15日以降の腸管杯細胞へ分化した細胞にはERp61が強く発現し、同時期の腎糸球体上皮にはERp72が強く発現していた。
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