研究概要 |
目的:呼吸器アレルギーの主な原因であるヒョウヒダニと、食品中に繁殖するコナダニ(貯蔵庫ダニ)間には交叉抗原性がある。コナダニ摂取が少ないと、ヒョウヒダニへの免疫寛容が破綻し、ヒョウヒダニ感作増加の原因になると仮定される。農村部と都市部の小児アレルギー疾患罹患率の相違を、この観点から証明する。 対象及び方法:一戸建てに住み、学童が2名以上いる家庭を無作為に、農村及び都市部から抽出する。各々の家庭について、1。保存食(味噌、小麦粉、醤油)の消費量調査と、飽和食塩法でのコナダニ混入の直接算定。2。寝室のタタミから採取した家塵中のヒョウヒダニ抗原量をELISA法で定量。3。学童のアレルギー疾患に関する病歴調査、およびダニ液を用いて学童にプリックテストを施行する。 結果:農村部からは熊本県阿蘇郡波野村の8家庭、都市部からは熊本市本荘地区の7家庭で検討できた。 1。農村、都市部で各々、一ヶ月に学童一人当り消費される味噌、小麦粉、醤油量に差はなく、コナダニ混入も全く認めなかった。(味噌 355±307gvs.298±340g,小麦粉 37±51gvs.41±96g,醤油 118±105mlvs.99±177ml,mean±1S.D.) 2。タタミ2畳から採取した家塵中のヒョウヒダニ抗原量は、農村に比べて都市部で多かった(372±286μgvs.533±671μg,mean±1SD)。 3。学童のアレルギー疾患罹患率に差はなく(気管支喘息0/16vs.1/14,アトピー性皮膚炎0/16vs.0/14,アレルギー性鼻炎1/16vs.2/14)、ダニ液を用いたプリックテスト反応陽性率にも差がなかった(5/16vs.6/14)。 結論:今回の研究では両群間のアレルギー罹患率に差がなく、仮説の証明に至らなかった。わが国の農村、都市部では食生活におおきな相違がみられず、冷蔵庫の使用、衛生的なパック食品も広く普及している。今後、この研究を進めるためにはアレルギー罹患率に差がみられる地域を国際的に調査し、ヒョウヒダニアレルギー発症とコナダニ経口摂取量の因果関係を国際的疫学手法で行う必要がある。
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