研究概要 |
ヒトにおいて敗血症や創傷感染症の起因菌となるVibrio vulnificusは,ヘモグロビンの補欠分子族であるプロトヘムを単一の鉄源として利用できる。本研究ではこのプロトヘム取り込みシステムに関して検討を加えた。 1.プロトヘムを細胞内に取り込む一連のシステムの最初の段階において,V.vulnificusはプロトヘム受容体を細胞表面に発現し,周囲のプロトヘムを細胞表面に固定していると考えられた。そこで,プロトヘム受容体の発現に関してまず検討した。V.vulnificusは,プロトヘムの存在下で数種類の新規蛋白質を細胞表面に発現した。しかし,これらの新規蛋白質は,いずれもプロトヘムとの親和性がなく,プロトヘム受容体としては機能できないことが強く示唆された。ゆえに,この病原細菌は受容体蛋白質を介することなく,プロトヘムを細胞内に取り込んでいる可能性が高い。 2.V.vulnificusを化学物質で処理することによって,プロトヘムの利用能力が消失した変異株を得た。この変異株が利用できる鉄源に関して検討した。その結果,プロトヘム以外の鉄化合物は,野生株と同程度に利用できることが明らかとなった。よって,プロトヘムは特殊なシステムによって,V.vulnificusの細胞内に取り込まれていると推察された。 3.水溶性ポルフィリン化合物に鉄イオンを配位させた人工のヘム化合物(Fe-TPPS)を単一の鉄源とした場合,V.vulnificusの野生株は増殖したが,プロトヘム非利用性変異株は増殖しなかった。また,銅イオンを配位させたヘムアナログ(Cu-TPPS)の存在下では,野生株のFe-TPPS,ならびにプロトヘムに対する利用性が著しく低下した。したがって,V.vulnificusのプロトヘム取り込みシステムは特異性が低く,人工のヘム化合物等も同じシステムを経由して細菌細胞内に取り込まれていると考えられた。
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