研究概要 |
ライム病では神経症状が見られ,このようなtissue tropismを理解する試みとして,神経細胞に広く存在するガングリオシドを初めとする糖脂質とボレリアとの接着性について調べた.スフィンゴ糖脂質のうち,ガラクトシルセラミド(GalCer),及びグルコシルセラミドに強い結合活性を見いだした.また,継代非病原株の接着性は有意に低下していた.継代非病原株ではOspCの発現が低下,消失する事から,OspCがGalCer接着因子として関与する可能性が考えられた.GalCerアフィニティーカラムクロマトグラフィーにより,ライム病ボレリアから接着因子の分離を試みた.当初の予想に反してOspCは接着因子としては機能せず,41kilodalton (kDa)鞭毛蛋白質,61kDa熱ショック蛋白質,67kDa未知の蛋白質とGalCerが結合することが明らかになった. 各種分離株のOspC遺伝子の塩基配列を決定した.同じ種に属す株間でも配列の相同性は80%前後で極めて多様性に富むことを明らかにした.この事実はOspCが接着因子の様な直接的病原因子として機能するのではなく,その多様性を利用して宿主免疫機構から逃避し,感染を持続させるの関与する可能性を示唆した.さらにはこの同種内における遺伝的多様性を逆に利用して,OspC-polymerase chain reaction (PCR)制限酵素断片長多型性解析(RFLP)法に基づく株鑑別法の開発に成功した.本法は同遺伝種に属す株の鑑別を可能とし,新たな分子疫学マーカーとして使用可能である.また,混合培養や多重感染の検出に本法が使用可能であることを明らかにした.重症複合免疫不全症マウス(SCID)を用いた感染実験で,強毒のBorrelia burgdorferi sensu strictoが1週間以内に関節炎を誘導するのに比べ,B. japonicaでは3週間後に弱い関節炎を誘導した.以上の結果よりB. japonicaの病原性は弱いが,非病原性ではないことを明らかにした.
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