研究概要 |
狂犬病ウイルスのもつ神経特異的な感染の起こる仕組みを明らかにすべく,まず神経由来の培養細胞(神経芽腫細胞および初代神経培養)および非神経性の培養細胞(ハムスター腎臓由来の線維細胞,BHK-21細胞)における感染効率を比較検討した.この実験目的には神経病原性を有するウイルス株としてERA株,神経病原性を失ったウイルス株としてHEP株を比較に用いた.両ウイルス株のBHK-21細胞における感染効率を1として,神経芽腫細胞における感染の効率をみるとHEP株は数倍,ERA株は20倍以上の高い感染効率を示した.次に,ウイルスの侵入速度を比較すると,この結果と平行して,ERA株は速やかに感染が進み,30分以内に90%以上の感染が成立するのに対して,HEP株は2時間後でもまだ100%に達していなかった.一方,非神経性のBHK-21細胞ではERA株,HEP株のいずれにおいても感染の成立が遅く,狂犬病ウイルスの感染の成立には,ウイルス側の要因のみならず,非神経性細胞には存在しない宿主側の因子も重要な役割をすることが分かった.以上に示された宿主因子が関与する感染効率の違いは,初代神経培養における狂犬病ウイルスの感染においても観察され,特にERA株は神経培養系に含まれる非神経性の細胞には殆ど感染が成立しなかった.また,HEP株ではERA株と比べて感染の効率がかなり低いことが示された.なお,当方でクローン化したアセチルコリンレセプター遺伝子cDNAを用いて作成したプローブにより同遺伝子の発現をみると,神経芽腫細胞では発現がみられたが,BHK-21細胞では殆ど発現がなかった.この所見は上記の実験結果と符合するが,必ずしもアセチルコリンレセプター遺伝子の発現との関わりを直接示すものではない.今後この点についての追及を行う予定である.
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