研究概要 |
1991年以降ニワトリ血球凝集能を欠くヒトインフルエンザウイルス(H1,H3)が、1996年以降はガチョウ血球凝集能をも欠くウイルス(H3)が分離されるようになった。本研究ではこのヒトインフルエンザウイルスのレセプター認識の変化を分子レベルで解析し、以下の結果を得た。 1.HAの発現系用いて解析を行った結果、H1,H3両亜型HAがニワトリ血球との結合能を喪失したのはHA上のレセプター結合領域を構成するアミノ酸である225番目、190番目のアミノ酸が各々変化したためである事を明らかにした。 2.HA1領域のアミノ酸配列を基に進化系統樹を作製し検討した結果、1.の変異はH1HAでは1986年以降、H3HAでは1990年以降に各HA上に生じていた事がわかった。 3.1996年以前と以後に分離されたウイルスのHA単独でのガチョウ血球との結合能を比較検討した結果、ともにガチョウ血球に対する結合能が著しく低下しており、これは、'96年以前のウイルスのHAでは189,190番目のアミノ酸が、また'96年以降のウイルスのHAでは226番目のアミノ酸が変化した結果である事がわかった。 4.'96年以前のウイルスのHAを単独で発現させている細胞をシアリダーゼ処理するとガチョウ血球との結合能が回復した事から、HA上の189,190番目のアミノ酸変化はレセプター結合領域近傍にシアル酸を含む糖鎖の付加を促し、その結果HAとガチョウ血球との結合が妨害されるが、実際には同一ウイルス粒子上のシアリダーゼがこのシアル酸を切断し、ウイルス粒子としてはガチョウ血球との結合も可能となっていた事が示唆された。 5.ウイルスにより識別される血球上のレセプター分子を解析した結果、特異的に識別されているのは糖蛋白質であり、糖脂室のレセプター結合特異性への関与は少ない事が示唆された。
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