研究概要 |
マウスエイズウイルス(LP-BM5MuLV)のgag p12遺伝子由来の25-merのペプチド(P12-25)がC57BL/6マウスのCD8T細胞に対して強い免疫応答を惹起することを既に報告している。そこで、本研究ではこのP12-25,あるいはさらに短いエピトープ部分と考えられるペプチドを様々な方法/経路でマウスに免疫することにより、マウスエイズの発症が予防/遅延できるかについて検討した。つまり、外来性のペプチドワクチンによるレトロウイルス誘発免疫不全の発症抑制を目指した。さらにそれらのペプチド抗原によって活性化されるCD8陽性T細胞がCTL(細胞傷害性T細胞)活性を有するかについても合わせて解析を行った。 以前の研究結果から、上述のP12-25ペプチド配列のなかには、MHC class l(H-2Db)分子に結合するアミノ酸配列モチーフ(XXXXNXXXL)を有する2種類の9-merペプチド(P12-9-1:LLTENLPNL,P12-9-2:ENLPNLPPL)が存在することが見い出されている。これらの9-merは同等にH-2Db分子に結合する能力を持つが、CD8陽性T細胞を活性化できるのはP12-9-2だけであることが示されたので、P12-25およびP12-9-2の2種類のペプチドをICFAと共にC57BL/6マウスの皮下(f.p.およびtail base)に免疫し、その1週間後にマウスエイズウイルス(LP-BM5 MuLV)を投与(i.p.)した。非免疫マウスはウイルス投与後約120日ですべて死亡したが、p12-25ペプチドを投与されたグループでは170日後まで生存するマウスがいた。さらにp12-9-2ペプチドを投与されたグループにおいては、ウイルス投与後200日を経過しても半数以上のマウスが生存した。このようなペプチド免疫により誘導されたマウスエイズ発症抑制がCTL活性によるものかを検討する目的で、同様の免疫操作を施したマウスの脾細胞をin vitroで抗原刺激した後に、通常のCr-release assayによりCTL活性を測定したが有意な活性は見られなかった。しかし、CD8陽性T細胞からのサイトカイン産生を調べたところ、IL-2,IFNγといったTh1タイプのサイトカイン産生が見られたが、Th2タイプのサイトカインであるIL-4の産生は見られなかった。これらの結果から、このようなペプチド免疫によりTh1タイプのCD8陽性T細胞が活性化されCTL以外の機能(DTHタイプ?)により宿主に抵抗性を賦与している可能性が示された。今後さらにこの点を解析し、有効な外来性ペプチドワクチンの開発を目指したい。
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