職業的に水銀に曝露することは、古くよりカドミウム同様腎近位尿細管の障害と蛋白尿の頻度が増加することが知られていた。一方、クエン酸が代謝されると三つの重炭酸イオンを生じるため、腎臓におけるクエン酸の排泄は生体における酸塩基平衡の維持に非常に重要な働きをしている。今回、ラットより分離精製した腎刷子縁膜小胞(BBMV)を水銀イオン(Hg^+)に曝露しBBMVにおけるクエン酸の取り込みの変化を調べた。BBMVの分離精製はBoothらのMg沈澱法を一部変更して行った。分離精製したBBMVにおけるクエン酸取り込みはミリポア急速濾過法により測定した。 BBMVを0.5及び2mM HgCl_2溶液で一分間前処置するとBBMVにおけるクエン酸の取り込みはHgで前処置しないものに比べて有意に低下した。また 0.1mMのHgCl_2溶液に30分間前処置した場合もBBMVにおけるクエン酸の取り込みは有意に低下した。 これらの所見によりBBMVを水銀に前処置することにより、BBMVにおけるクエン酸の取り込みは時間依存的にまた水銀の濃度依存的に阻害されることが示唆された。 このことは、水銀曝露により生体が代謝性アシドーシスに傾くことを示している。しかし、水銀の生物学的半減期はカドミウムに比べて短い。従って、慢性の水銀中毒における腎障害と酸塩基平衡を調べるには in vivoでの実験が必要である。
|