研究概要 |
前年度までに、超低周波磁場が50Hz,20mTといった条件下ではヒト精子染色体に構造異常を引き起こさないこと、および5種類の化学物質(nitrobenzene(NB),bleomycin(BM),urethane(UT),N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG))をヒト精子染色体に曝露した場合、BMとMNNGのみで染色体構造異常が有意に増加したことを報告した。本年度は最終年度にあたるため、超低周波磁場と化学物質の精子染色体に及ぼす複合影響について検討を行った。化学物質は前年度の検討結果よりBMとMNNGを用いた。 【対象および方法】健常男性3名から得られた精液にBMまたはMNNGを添加し30分後に、培養液で洗い、それを二分し、一方を37℃,5%CO2の条件下で超低周波磁場曝露細胞培養装置中で50Hz,20mTの低周波磁場に2時間曝露させ、他方は非曝露対照群として前記装置と同室にある通常の炭酸ガス培養器中に同時間置いた。曝露終了後それぞれを精子凍結保存用TYB液で希釈後、液体窒素中に保存した。凍結精液を解凍後、運動能の高い精子を回収し、それらに受精能獲得処理を施し、凍結解凍ハムスター卵と体外受精させた。受精後20〜21時間目に染色体標本を作製し、おのおの100精子当たりの染色体異常頻度を算出した。 【結果および考察】曝露群および非曝露対照群における構造的染色体異常を持つ精子の出現率では、曝露群における異常率の増加は見られなかった。染色体異常のタイプと頻度で観察しても染色体型、染色分体型ともに切断型異常、交換型異常で差は認められなかった。これらの結果はこの実験条件下では複合影響が認められなかったことを示しているが、さらに実験条件(磁場強度、化学物質の種類・濃度など)を変えた検討も必要と思われた。
|