研究概要 |
【目的】臨床疫学的に、飲酒は肝発癌と何らかの関係があると考えられる。そこで、我々はラットの実験的化学発癌系を用いて飲酒パターンと肝発癌の関係について検討した。 【方法】実験1.6週齢のWistar系雄性ラットにdiethylnitrosamine(DEN)200mg/kgを腹腔内投与した。2週間はいずれの群も固型食と水を自由に与えた。以後、飼料の投与パターンにより以下の5群に分けた。(1群)アルコール非含有液体飼料(C食)にて24週間育した。(2群)5%アルコール含有液体飼料(A食)を12週間与えた後C食にて12週間飼育した。(3群)5%A食にて24週間飼育した。(4群)5%A食とC食を2日毎交互に与え24週間飼育した。(5群)2.5%A食にて24週間飼育した。すべてのラットに対し3週後に2/3の肝部分切除を行った。実験2.慢性アルコール摂取の中断の肝発癌に及ぼす影響を調べるための次の実験を行った。2群において、12週間5%A食摂取後、C食開始3週後、6週後、12週後に屠殺し、それぞれの時期の5%A食継続群と比較検討した。実験1,2ともに屠殺と同時に摘出した肝臓をホルマリン固定し切片を作成し、glutathione S transferase-p(GST-P)陽性細胞巣(foci)を発癌の指標として各群の発癌状況を検討した。また、細胞増殖および発癌の指標になるといわれるornitine decarboxylaze(ODC)活性を測定した。 【成績】実験1:GST-P陽性fociの面積は2群が最も大きく、1,4群では他の群に比し小さかった。1,2群のODC活性は3,5群のそれに比し有意に高値を示した。実験2:GST-P陽性fociの面積はA食中断後経時的に増加した。A食中断3,6週後のODC活性は同時期の5%A食継続群に比し高値を示していた。 【結論】ラットの化学発癌モデルにおいて、長期のアルコール多量摂取を突然中止すると何らかの機序によりさらに肝発癌が促進する可能性が示唆され、そのひとつとしてアルコール摂取中断による肝細胞増殖の活性化が考えられた。
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