研究概要 |
人獣鑑別の観点から,ABO式血液型を規定する糖転移酵素DNAに着目し分子遺伝学的に解析した。ヒトと8種の霊長類動物(チンパンジー,シロテナガザル,ヒヒ,日本ザル,カニクイザル,アカゲザル,ミドリザル,フサオマキザル)の血液を用いて,常法によりDNAを抽出した。続いて,ABO式血液型を規定する糖転移酵素の562番目から742番目に相当する181bp断片に注目し,ヒト及び霊長類動物における同部位のDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応一制限酵素断片長多型(PCR-RFLP)及び直接シークエンス法で分析した。その結果,PCR-RFLP法で,ヒト,チンパンジー及びミドリザルの181bp断片は,制限酵素HhaI消化により147と34bpの断片(計2本)に切断され,これら以外の霊長類動物では115,34及び32bpの断片(計3本)に切断された。一方,チンパンジー及びミドリザルの181bp断片は制限酵素Mval消化により,82,58及び41bp,並びに69,58及び54bpの断片(計3本)に各々切断され,ヒトやその他の霊長類動物では123及び58bpの断片(計2本)に切断された。両制限酵素の結果から,PCR-RFLP法でヒトはチンパンジー等8種の霊長類動物から区別しうることが示された。更に、この181bp断片の直接DNAシークエンス法でも,上述のPCR-RFLP法の結果に一致する点突然変異が確認され,両者間に矛盾はなかった。ヒトのA型糖転移酵素のDNA塩基配列と比較して,これらの点突然変異数はチンパンジー等ヒト上科で2カ所,日本ザル等の旧世界ザルで3カ所,フサオマキザル(新世界ザル)で7カ所認められ,この結果は霊長類進化における系統樹と良く一致していた。
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