研究概要 |
本研究では国際的試料収集に適した方法として、唾液からの簡便かつ確実なDNA抽出法であるキレックス法による実験条件を確定した。 ミトコンドリアDNA制御領域のシークエンス変異解析方法をまず確立した後、その方法に基づき、日本人、中国人、モンゴル人、ミャンマー人、台湾人、マレーシア人、バングラデッシュ人などアジア系の人種および欧州人、約500人において、ミトコンドリアDNAの制御領域の多型を検索してきた。このうち特に塩基番号16158-16192までの領域は、パターン化すると6型に分けられる変異型があることが判明した。このうち16158,16162,16164,16169,16172,16173,16182,16185,16186,16189,16192の塩基に着目し、それをシークエンスパターンすると、A,B,C,D,E,Fの6型に分類できる。 その結果日本人と欧州人は65%以上がA型で、台湾人と中国人、モンゴル人ではA型が約40%であり他の型の出現頻度にも類似性があったため、これらの人種の類縁関係、ないし変異の共通性が示唆された。なお、ミャンマー人とマレーシア人では、A型の頻度は20%未満で、C,D,E型は僅少であり、他人種にはみられない9種以上の特異的なDNA配列パターンが出現していた。 人種によって特異な変異型が存在することは、いくつかの人種においてはミトコンドリアDNA高変異領域による人種鑑別が可能であることを示唆するものである。 ただし同一人種内では、いくつかの例外を除き、塩基変異の傾向が一定しており、読みとる塩基が短い場合には血縁のない者でも同一の塩基配列を有する場合も出現しうる。また塩基変異には16182、16183、16189のように連鎖傾向をもって変異する部位もあり、ミトコンドリアDNA高変異領域の多型は複雑な構造を有することも明らかになった。
|