研究概要 |
1.灯油成分の定性分析 1,000ppmの灯油蒸気を15分間暴露後,屠殺したラットを0,1,3,6,12および24時間室温放置した場合のいずれにおいても,血液および諸臓器から灯油の成分である炭素数9から20までの炭化水素が明瞭に認められた.次に,トリメチルベンゼン類をモニターした場合,クメン,メシチレン,プソイドクメンおよび1,2,3-トリメチルベンゼンの4種はいずれの試料においてもクロマトグラム上の分離度は良く,腐敗による産生物質等の妨害もなく分析可能であった. 2.灯油成分濃度の死後変化 1)灯油蒸気定量の指標とした4種類の成分の血液および諸臓器中の濃度は,死後24時間までは,脾臓を除き概ね40〜110%の範囲内で推移した.諸臓器中,比較的高濃度の灯油4成分が検出された腎臓については,死後6〜12時間経過した時点から徐々に増加傾向を示し,脳や肝臓と同様に試料間での濃度値変動は大きかった.このことは,これらの臓器においては組織全体に対する脂肪組織の割合が高いため,脂溶性の高い灯油成分が死後拡散等の作用によって徐々に浸潤したことによるものではなかろうかと推測された. 2)肺臓中の4成分濃度値は血液中のそれらと比較してほぼ類似した傾向で推移し,濃度比で0.4〜1.4の範囲内で変動した.従って,死後経過時間が延長し血液試料が得られない死体の場合には肺臓中の濃度から血液中の濃度をある程度推測可能と考えられた. 3)大腿筋中の4成分濃度合計値は死後経過によって差程変化せず,比較的安定した値を保持していた.従って,大腿筋中の灯油成分濃度値からも死亡直前の濃度を推測することが可能と考えられた.
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