研究概要 |
脳死状態を経過後心停止に至り,司法解剖に付された6名(脳死群)と脳死状態を経過しないで心停止に至った5名(非脳死群)の剖検死体について,体組織中カフェイン濃度をGC-MSを用いて測定した.その結果,非脳死群のカフェイン濃度は脂肪以外の体組織においてほぼ血中濃度と同じになった.脂肪では対血中濃度比は約0.3であった.脳死群においては脳と脂肪以外の体組織中カフェイン濃度は非脳死群と同様,血中濃度と等しくなった.脳のカフェイン濃度に関しては6例中5例については血中濃度より高く,輸血が行われた1例のみは血中濃度より低くなった.脂肪の対血中カフェイン濃度比は脳死群では非脳死群よりやや高い値となった.この脳死群における脳中薬物濃度の変化は,脳死状態において脳血流が停止したためにもたらされたものであろうと考えられた.そこで脳とその他の体組織中カフェイン濃度を比較することで,脳死の法医学的証明が可能であることが判明した. 次に,脳死状態を経過後心停止に至り司法解剖に付された49歳男性の各体組織中からGC-MSによりmepivacaine,pentazocine,lidocaineおよびthiamylalを検出した.mepivacaine,pentazocine,lidocaineの脳中濃度の対血液中濃度比はその他の体組織のそれに比べて高くなり,一方thiamylalの比は低くなった.そこで脳血流は前者の薬物の投与後,後者の薬物の投与前に停止したものと考えられた.脳の7つの部位についての各薬物の濃度は前者の薬物は,後頭葉と頭頂葉で高く,後者の薬物は小脳と延髄で高かった.以上のことから,脳血流は後頭葉と頭頂葉で最初に停止し,小脳と延髄で最後に停止したと考えられた.以上の結果,脳の各部位を含む体組織中薬物濃度を測定することは,脳死の時期と脳死に至る経過を知る上で大変有用であることが判明した.
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