研究概要 |
食物繊維の大腸癌予防効果はほぼ確立された感があるが,食物繊維の範疇に含むか否かで意見が分かれる難消化性澱粉の大腸癌予防効果は不明である。また,食物繊維の大腸発癌抑制の重要な機序として短鎖脂肪酸の存在が指摘されているがこれも十分に解明されていない。本研究では,難消化性澱粉の大腸発癌抑制作用と短鎖脂肪酸の関与等を明らかにするために以下の実験を行った。すなわち,ラット実験大腸癌に対する難消化性澱粉の影響を食物繊維(セルロース)と比較した。具体的にはラットを摂取飼料別(無繊維,10%セルロース、10%難消化性澱粉食)に群分けし,発癌剤として1,2-demethylhydrazineを週1回,15mg/kg,計15回,腹腔内投与し大腸癌を作成した。さらに,内視鏡検査を頻回に行い,大腸腫瘍の発生,発育を経時的に観察し比較した。期間中に糞便中の短鎖脂肪酸の量も測定した。以下の結果が得られた。 1.10%セルロース群で大腸癌の発生が抑制されていたが,3%セルロース群,3%難消化性澱粉群,10%難消化性澱粉群では抑制効果は認められなかった。 2.1日当たりの糞便乾燥重量は基礎食群と比べ10%難消化性澱粉群で約2.8倍,10%セルロース群で約6.3倍であり,糞便増大作用は難消化性澱粉群よりもセルロース群で著明であった。 3.酪酸濃度は盲腸・遠位大腸内容物・糞便すべてにおいてセルロース群よりresistant starch群で高値を示し,酪酸総量も遠位大腸・糞便でセルロース群より難消化性澱粉群で高値を示した。 以上より,難消化性澱粉もセルロース同様,糞便を増大させ,腸内細菌による発酵を受け短鎖脂肪酸まで分解されるということは明らかとなったが,本研究では難消化性澱粉には大腸発癌に対する抑制効果は証明できなかった。
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