研究概要 |
本研究は慢性膵炎の素因,遺伝子異常の関与を解析し,病態の本質に迫ることを目的とした。遺伝性膵炎(HP)の遺伝子異常としてtrypsinogen遺伝子の点突然変異(Whitcomb 1996,1997,G-to-A transition in exon 3(R117H)and an A-to-T(N21I)change in exon 2)が欧米の症例で報告された。日本でのこれらの変異の有無と新しい異常の検出,臨床像の差,少子化の日本での家族性膵炎の遺伝性とする条件の確立を試みた。本研究でこれまで集積してきた教室の10代前半に急性炎症で発症した慢性膵炎確診を含む家族例で臨床解析を行った。家族内集積例10家系及び若年発症(JP)例4家系24名(発症者19名、非発症者5名)を対象とした。 R117H変異が家族内集積例の4家系で急性炎症での発病者のみに認められた。そのうちGrossのHPの定義を満たすのは3家系であった。しかしExson2の変異は認められていない。発症年齢はHP例では28才以下だったが、HP例を除く家族性膵炎(FP)例では8才〜46才まで広く分布していた。耐糖能異常は飲酒歴のあるFPと発症から長期経過したHPおよびJP4例中3例に認められた。膵石灰化はHPの総てとFPのほとんどで認められたが、飲酒歴のないJPには認められなかった。2世代(親子)以上で患者が出現しており,特に10歳代での発症例を含む家系であれば,発病者が2人でも遺伝性慢性膵炎と診断可能と考えられた。 trypsinogen遺伝子の他の部位,ヒトPSYI,ヒトregIα,ヒトregIβ遺伝子の変異などの異常の有無を各種方法で解析した。しかし,現時点ではこのほかの遺伝子に変異は認められていない。家系解析に頼らず一症例から遺伝子診断することが可能となった。
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