研究概要 |
近年,我が国ではコレステロール(以下,Ch)胆石症が急増しているが,この間,n-3多価不飽和脂肪酸(魚油;エイコサペンタエン酸(EPA))摂取量が顕著に減少している。本研究ではEPAにCh胆石の予防効果があるのではないかとの仮説に基づき,EPAがCh胆石生成に及ぼす効果と機序を明らかにすることを目的とした.まず,ハムスター実験胆石モデルの検討において,EPAの経口投与がCh胆石生成を抑制することが判明した.この際,胆汁では,総リン脂質(PL)濃度の増加およびEPA含有リン脂質の増加,アラキドン酸含有リン脂質の減少が認められ,Ch結晶の析出が有意に抑制されていた.次に,これら胆汁組成の変化とEPAの胆石抑制効果の関連を明確にするため,胆汁中Chの結晶析出性に対するEPA含有リン脂質の影響および胆嚢上皮のムチン分泌に与えるEPAの影響をin vitroで検討した。人工胆汁を用いた実験では,胆汁中総リン脂質の量的増加は,Ch担送体であるリン脂質ベジクルを安定化しCh結晶析出を強力に抑制することが判明した.一方,培養胆嚢細胞の実験では,EPAは,アラキドン酸カスケードを介したムチン糖蛋白分泌を抑制することが判明した。 以上,本研究により,n-3多価不飽和脂肪酸であるEPAの経口投与がCh胆石生成を抑制することが新たに明らかとなった。胆汁中リン脂質の増加によるCh結晶析出の抑制とアラキドン酸の減少による胆嚢ムチン分泌の抑制が,その機序と考えられた.これらの研究成果は,動脈硬化血栓症の予防において注目されている魚油に,我が国で増加している胆石症の予防,という新たな健康上の意義を負荷するものである.現在,ヒトにおいても同様の薬理効果が得られるかどうか検討しており,今後,分析疫学的,介入疫学的手法による検証も望まれる。
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