研究概要 |
Helicobacter pylori感染症の病態は多様であり,潰瘍や胃癌の発生に関しては,菌株および宿主について何らかの病態規定因子が存在するものと推測される。この菌が産生するタンパクVacAは空胞化細胞毒性を持つ。一部の菌株はVacAを産生せず,病原性が弱いことが,欧米から報告されている。そこで本研究では,我が国におけるVacA産生および非産生のH.pylon株について,宿主側の臨床的特徴を明らかにするとともに,その病原性の分子レベルにおける解明を目標とした。 我が国で分離されたH.pylon菌株はVacA産生株が圧倒的に多いことが判明した。培養上清の空胞化毒素活性はほぼすべての菌株で陽性であった。また,vacA遺伝子の塩基配列の解析では,すべての菌株が,空胞化毒素分泌型に属していた。さらに大腸菌で組換えVacAを発現させ,これと反応する患者血清中の抗VacA抗体を検出するとともに,特異的抗VacA抗体を作製し,臨床分離株のVacA産生を検証したが,宿主側の病態とは無関係に,我が国のH.pylonの大部分がVacA産生株であることが明らかとなった。同様に、組換えCagAおよび抗CagA抗体を作製して,イムノブロット法により,患者血清中の抗CagA抗体および臨床分離株のCagAタンパク産生を調べたが,CagA陽性株が9割以上を占めていた。すなわち,我が国のH.pylonの大部分はいわゆる強毒素であり,病態規定因子としては,VacA,CagA以外の因子についても検討する必要がある。また,我が国の胃癌発生率が先進国のなかで著しく高いことと強毒株感染が多いこととの関係も検討する必要があると考えられた。
|