研究概要 |
1、膵癌に対する新しい治療法を開発する目的で、各種ビタミンA誘導体の膵癌細胞株に対する増殖抑制効果の比較検討と、細胞周期に対する影響を検討した。4種のビタミンA誘導体,all trans retinoic acid (ATRA),13-cis retinnoic acid (13cisRA),9-cis retinoic acid (9cis RA),mofaroteneのうちmofaroteneが9種の膵癌細胞株全例に対して濃度依存的に著明な増殖抑制効果をみとめた。増殖抑制効果は、G1期でのcell cycle arrestを伴っていた。またmofaroteneはcyclin dependent kinase inhibitor (CDKI)であるp21,p27を投与24時間の時点で著明に誘導し、retinoblastoma proteinの低リン酸化分画を増加させたが、抑制効果を認めないATRA,13cisRA,9cisRAではこれらの変化は認めなかった。従って、mofaroteneが最も増殖抑制効果が優れており、p21,p27誘導によるG1 phase cell cycle arrestがその機序と判明した。 2、ビタミンA誘導体による膵癌細胞表面糖鎖の変化については現在検討中である。ビタミンD誘導体については分化誘導効果に伴い、sialyl Lewis X糖鎖の発現が減弱する傾向を認めたが、今後さらに確認する予定である。 3、慢性膵炎に認められるKi-ras codon 12の点突然変異が膵発癌と関連するかを、10年以上にわたり長期に保存してある膵液検体を用いて検討した。慢性膵炎の約37%にKi-ras codon 12の点突然変異を認め、恒常的に存在した。しかし陽性例の膵管像を経時的に検討しても膵腫瘍の発生を確認できなかった。従って、膵発癌には他の遺伝子異常がさらに付加することが必要ではないかと考えられた。
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